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【評価が高め】世間でいうクリスマスイブに綺麗な娘を買った(10/13ページ目)
投稿:2011-12-01 21:00:00
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「ただいまデート美少女無料キャンペーン中!1分以内にレスくれたヒロくんには、美少女添い寝の特典付き!会いたいよ〜。ヒロぉ」
30秒ジャストでレスした。
会いたいとだけレスしてから、場所を追伸した。
美少女って微妙な表記には触れなかった。
フロッピィの事もあるし。
自宅最寄り駅のカフェ。
改札を通過する乗降客が見渡せる席に姫様はいた。
ぎこちなく手を振る僕。
彼女は急いでやって来て、僕の額に手を当てると困ったような顔をした。
「熱があるね。全然よくなってない」
と言った。
彼女はスーパーに寄ってから行くと言い、タクシーを捕まえて僕を押しこんだ。
風邪もここまで酷いと、歩く事さえ辛い。
彼女はその日、フロッピィの事はひと言も口にしなかった。
僕はというと、気まずさを感じながらもやはり口にはできなかった。
そうした途端、彼女の触れてはいけない何かが溢れる気がしたからだ。
僕の知らない何か。
だけどとてつもなく厄介だという事は、何となく分かった。
彼女自身、お伽話の最初の滑りだしをどうやって扱うか持て余しているようにも見えたからだ。
どうした事か罪の意識はあまり感じられなかった。
もしかすると、僕は彼女の口から事の真相の一部始終を聞きたいと考えているのかもしれなかった。
目黒で過ごした夜の底に転がった、滑らかな彼女の背中。
僕はバッグの中身から逃げるように、彼女の細くて華奢な腕を求めた。
あの夜から僕は本当は知っていた。
薄々勘づいていた。
あの中身は僕には重すぎるんだって事。
そして彼女にとっても。
でも、僕はそいつをブートしてしまった。
どこかでカチリと音がして、不可視のサーボモータが静かに作動をはじめ、長い夜を巻き取ってゆく。
もちろん停止スイッチなんてない。
夜が巻き取られて消えてなくなってしまうまで機械の動作は続く。
その時僕はどこで何をやってるんだろうな。
少なくとも姫様は僕の側にはいない気がした。
頭が痛かった。
熱は酷くなる一方だった。
タクシーが見覚えのある郊外型ショッピングモールの入り口で小さく旋回して震えて止まる。
姫様は僕のためにレモンと蜂蜜と、それから何か細々とした雑貨を紙袋に詰めて戻ってきた。
それからショートケーキの小箱。
「この前手ぶらだったから」
と彼女は言った。
僕は鞄からクマを取り出して両手で支え、ぺこりとお辞儀させた。
彼女の気遣いには、ちゃんとお礼しなきゃいけない。
彼女はクマの頭を見て笑った。
新しい帽子。
ペプシのキャップ。
クマはちょっとした帽子コレクターになりつつある。
タクシーが玄関前に横づけして止まると、母が待ち構えいたように玄関から出てきた。
まるで僕の帰宅を知ってたみたいだ。
何でだろう?
僕は多分不思議そうな顔してたんだろう。
「ヒロのお母さんに電話で連絡しておいた」
と彼女は言った。
「二度も突然やって来るわけにはいかないんだし。お互い様でしょ」
と言って彼女は作ったような無表情になった。
彼女の顔から笑顔が消えるとひどく冷たく見える。
彼女は僕が見たフロッピィの事をほのめかした。
「ヒロのシステム手帳とケータイの中身ををすべて拝見しました。ヒロの住所と会社の住所。太田君の住所と、その他すべてのアドレス。重要なところは全部私のメモリに転載済みなんだから」
まぢですか。
すると、僕のお気に入りのパンチラサイトもバレたんだろうか。
って事は、本当は制服ミニスカ好きって事もバレたんだろうか。
飲んでる時に教えてもらい、確かURLを手書きで1ページに大きく書いたはずだ。
彼女ならURLを一度開いてみるくらいの事はやったかもしれない。
それからオタ。
ごめんよ。
お前の圧縮前の名まで知られてしまった。
僕は叱られた子供みたいに、シートで小さくなるしかなかった。
クマを握ったままなので余計間抜けに見えたはずだ。
母の小言が僕を捉える前に、2階自室へ急いだ。
姫様も心得てて、母の注意を自分に集め、いつの間にか台所へと2人で消えてしまった。
シャツを脱ぎ捨て、ネクタイを放り投げ、ユニクロのスウェットに着替える。
カーテンを開けると、灰色の沢山の雲に反射した光が部屋の中に溢れた。
よく晴れた日の日射しは部屋に暗い影をつくる。
曇った日の方が部屋の中は明るい。
均一にまわった光の中では、僕の部屋はあまりにも普通に見えた。
何の面白みもない、個性の欠片すらない仕事に忙しい独身男の部屋。
やたらと山積みになってる音楽CDも、沢山の雑誌も、音楽に造詣深いっていうよりは刹那的な趣味。
むしろオタクの嫌な臭いが漂ってきそうに見える。
ベッドに潜りこむと、僕は落ちるように眠った。
眠りに落ちながら、階下で姫様の笑う声を聞いた。
細くて高いのにちっともうるさくない。
子守歌には最適の音域。
その子守歌には間違いなく、僕を包みこんで落ち着かせてくれる魔法のような力があった。
眠りの導入をうながしてくれる、日なたの匂いにも似た清潔な安心感があった。
汗をかいていた。
夕食を運んできてくれた彼女の気配で目覚めた時、布団の中はもう病人の匂いに湿っていた。
彼女は僕の胸に、冷たいひんやりとした指先を置き
「ヒロかわいそう」
と言った。
「ごめんね。今夜はずっと一緒にいてあげるね」
と言った。
ごめんね、と謝るのは横須賀の夜の事かな、と思った。
そう聞いた時、僕は彼女が横須賀を訪れた事を、やっぱりちっとも後悔してなくて、満足しているんだと確信した。
だからここにいるよ。
ヒロのそばにいるよ。
そんな意味かなと思った。
本意が掴めず、いぶかって姫様を見つめると、自然に目が合った。
優しげなのに何となく怒ってる感じもする、カラコンでもないのに、うっすらとブラウンの混じった大きい瞳。
僕の知らない風景を沢山映してきたんだろうな。
渋谷の町外れのドラム缶と焚き火に燃え上がる、色んな欲望の光彩。
虹彩に刻まれた残酷な風景。
閉じる事も敵わなかった。
姫様はその全部を受け止めるには若すぎたんだと思う。
啜り泣きと落胆。
そうやっていくつもの晩を過ごしてきたんだろうな。
今でも帰る家すらない。
姫様はいつだって、家には帰りたくないと言った。
それを実行に移すために若い女の子がとれる選択肢は多分、いくつもない。
姫様の瞳の奥に眠る風景。
ネオンサインと、その明滅に沈む渋谷の街。
でも、よく考えてみろ。
と僕は自分に言った。
僕にしたところで、それは同じなんだ。
僕だけが特別じゃないんだ。
僕は金を支払い、気の済むまで彼女を渋谷の夜の中に縛りつけようとしている。
プラスチックの白いスプーンが、やけに子供っぽく見えて、姫様がそれを手にした時、僕は
「自分で食べる」
と言った。
照れくさかった。
起きるのは面倒だったし、正直食欲は全くなかった。
でも姫様がわざわざ作ってくれた雑炊なら、食べる。
無理しても残さず食べる。
いつの間にかストーブに火が入れられていて、部屋は暖かだった。
彼女は僕が食べる横で、どうやって作ったかとか、ちょっとした工夫があるとか、母と色々話しをしたとか、取り留めのない話をした。
その内、興味が部屋に積まれたCDに向けられ、その中の一枚を借りてってもいいかと訊いてきた。
僕は、ただうんうんとだけ頷いた。
言葉を口にしようとすると咳になる。
それに体が重かった。
それから雑炊が美味くて、食べてるうちに食欲が湧いてきたほどで、そっちに集中してたせいもある。
僕はサラダまできっちり平らげた。
ごちそうさま。
手を合わせると彼女は喜んでくれた。
ベッドに横になって、目を閉じる。
彼女の指先を唇に感じた。
形のいいネイルのさきっちょが、僕の口の上を掠めて踊る。
彼女は何かの歌を歌っていた。
かすれるほど小さい声で。
そして歌いながら僕にこう訊いた。
「どこまで分かったの?」
フロッピィの事だと思った。
すぐにそうだと分かった。
僕は何も言わなかった。
実際理解できてる事なんてひとつもない。
だから答える事ができなかった。
「ヒロ。お願いだから、ヒロからは見えない私を追いかけないでね。そこで立ち止まってね。もうじき終わるから。もうちょっとで全部終わるから」
彼女はそう言って、僕のお腹のあたりに頭を重ねた。
もうちょっとですべて終わる、と言った。
間違いなくそう言った。
僕は目を閉じたまま、何も答えなかった。
やっぱり重すぎる。
ほらみた事か、とオタの叫ぶ声が聞こえる。
あの夜はどのくらい巻き取られたんだろう。
僕らにはあとどのくらいの時間が残されてるんだろう。
何も答えないまま、僕は眠りの中へ逃げこんだ。
彼女の声。
それは細くて子守歌にはぴったりの柔らかさ。
ここにいるよ。
ヒロのそばにいるよ。
8日朝。
子供の頃からずっと通いつけの主治医のいる病院。
彼女は待合室の平べったい長椅子に座っている。
茶色で合成皮革の長椅子はところどころに穴が空いていて、ガムテープで補強されている。
何度となく見てきたこの茶色の長椅子に座っていると、本当に気が滅入る。
多分病院の陰鬱なイメージが刷り込まれてるんだろう。
主治医は高齢で真っ白い髭が自慢の、子供に優しい爺さんだった。
安静に。
これが処方箋だった。
僕はこの言葉を受け取るためにここに来る。
安静に。
この病院で2種類以上の薬を処方される事はまずなかった。
だから僕はこの爺さんが気に入っている。
飲んでもいいし、飲まなくてもいい。
爺さんはそう言ってるみたいだった。
問診と触診が終わって、シャツに手を通してると爺さんは僕にこう言った。
「今日はあのお嬢さんと一緒にいなさい。そばにいて看病してもらいなさい」
僕が笑いながら、
「なぜです?」
と訪ねると爺さんはあっさりこう言ってのけた。
「若い男の風邪の特効薬は、若い女性だ」
からかうように僕に言って、それがよほど可笑しかったのか声に出して笑った。
僕は小さかった頃、この爺さんによく釣りに連れていってもらった。
ペンキの剥げた小型トラックの荷台に乗って、海岸を目指すのが好きだった。
弟は釣りに熱中してたけど、僕は荷台に揺られる道中そのものが好きだった。
海岸線道路のコントラストの効いた強い日射し。
蝉の声。
僕の幼少の頃は平穏そのもの。
どこにいっても安全が漏れなく無料でついてくる。
大人達が緩く張った監視の目から外に出る事のない毎日。
でも姫様はそうじゃなかった。
風邪に倒れた時、姫様はただ寝てるしかできなかったんじゃないだろうか。
ひょっとするとあの社のどこかに、ひっくり返ってただじっと天井の絵を眺めているしかできなかったんじゃないだろうか。
あの晩、彼女は目を閉じ、欠落した絵を克明に復元した。
小さな唇から漏れた言葉が、闇の中で結晶化して、美しかった絵の細部を浮かびあがらせた。
その記憶の正確さは、長い事あの絵だけを見て過ごした証拠だ。
小さな女の子が、あのカビ臭い絵をそっくり記憶してしまうほどの動機ってなんだ?
いや、動機なんて多分ない。
不自然すぎる。
そういう状態に追いこまれたんだ。
彼女はただうずくまって、熱が去るのをじっと待っていた。
目を開けば天井の絵が視界いっぱいに広がる。
その時弟は、彼女の側にいて額に浮いた汗を拭ってあげたんだろうか。
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